ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
UP 地域の力

京都、滋賀で地域福祉を支えるNPO(民間非営利団体)や地域の人たちの活動や話題をリポートします。


NPO法人 夢の木


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 比良山系の山すそは、いま、緑が目にしみる。大津市北比良の特定非営利活動法人(NPO法人)夢の木は、豊かな自然の中、精神障害者が社会復帰する施設を営んでいる。湖西地方では唯一のグループホーム「夢の木苑」と共同作業所「夢の木」を開設、昨秋から別会社を設立し、訪問看護ステーションから介護ヘルパー派遣へ業務を広げている。これらを包括して障害者が地域とともに生きるシステムづくりをめざし、その福祉資源が持続する循環型モデルを模索している。


障害者の受け入れ支援

 8年前、京都の病院で長年、働いてきた副島喜美男さんが退職後、北比良に敷地を求め、自宅を建設した。ところが、退院した障害者を受け入れる地域づくりが、湖西地方に欠如していると痛感。自宅と敷地を利用し、周辺の住民たちの理解と協力をえながら、賛同者とともに共同作業所とグループホームを立ち上げた。

 作業所は通所者が20人で、地元の大津、高島の両市はじめ近江八幡、甲賀市など全県に及んでいる。仕事は請負作業より、それぞれの人たちの希望や意欲に沿って、もの作りを主としている。机などを作る木工、畑での野菜栽培、リースの製作など、創作する動機を大事にしているという。中でもリースの人気が高い。通所者が秋に周辺の森に入って、つる、松かさ、ドングリなど自然の素材を集めて手作りし、県内のコンクールに入賞し、スーパーでの販売実績を重ねている。

 またグループホームは、6月に協力する人から提供された大型家屋を利用してケア付きホームを増設する。これで定員が12人に増える。新しいホームはケア担当者が常駐し、若い人から高齢者まで3世代が同居という家族的な構成。日常の生活ではスタッフが付きっきりで世話するのではなく、できるだけ自分たちで、さまざまな課題に対応し、処理することを尊重する。この結果、この5年間で7人が同ホームを卒業し、一人暮らしに移った。また再入院のケースがほとんどないという実績を築いている。

包括型システムを模索

 昨年末には「包括的地域精神保健福祉医療研究会」を高島市で開いた。包括型地域生活支援プログラム(ACT)の分野で第一線に立つ研究、実践者を招き、シンポジウムと合同研究会を行っている。このACTは1960年代、精神障害者を包括的な地域ケアで支援するプログラムとして米国で創始。現在、欧米や豪州へ広がり、日本でも地域福祉の面から注目されている。

 施設長の副島さんは「日本では多くの精神障害者は病院を退院しても、地域に受け皿が乏しくて、やむなく病院に留まっているのが現状です。この20―40年間に世界各国がベッド数を大幅に減らしたので、日本は世界最多となり、地域ケアのシステムづくりが立ち遅れている」と現状を指摘。「住み慣れた地域で、だれしも人間の尊厳を保って一生を送れることは、ごく当然な望みでしょう。そして障害者は日々命がけで生きているんですから、なんとか支援する必要があります。その近くから支援するシステムがつくっていければ、最もいいのではないかと思っているんです」と話している。

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<メモ>特定非営利活動法人 夢の木
大津市北比良1043ノ146 TEL077(596)2782