ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
UP 地域の力

京都、滋賀で地域福祉を支えるNPO(民間非営利団体)や
地域の人たちの活動・話題をリポートします。


東近江・かじやの里の新兵衛さん


 広大な庭園と白壁・黒瓦の邸宅。近江に散見される和風豪邸が、そっくり福祉の拠点に生まれ変わっている。東近江市佐野町、代々庄屋を務めた一族の古い民家を旧能登川町社会福祉協議会が買い上げて改修し、小規模多機能型居宅介護事業所「かじやの里の新兵衛さん」を開設して2年余り。年をとっても住み慣れた町で1日でも長く暮らせるように、地域介護の新たな取り組みが進んでいる。

写真
お手製の歌謡かるたで遊ぶ利用者たち
豪邸を福祉の拠点に 行き届いたサービス
 敷地は1167平方メートル、床面積221平方メートル。前面に広がる庭が400平方メートル。広大な屋敷は、旧能登川町の初代町長田附新兵衛さんの持ち家で、築180年という旧家。現在、登録記念物「名勝地関係」の候補物件として滋賀県が調査中。

 2005年秋、認知症の人たちの通所介護サービスを始めたが、翌年6月から介護保険の改正に伴う小規模多機能型居宅介護事業へ切り替えている。定員は登録24人、通いサービスが12人、泊まり4人。当初は新制度により利用料金の増加や他のデイサービスの兼用不可などから利用者減が見込まれたが、地域包括センターの協力とともに登録者を確保した。

 営業日は365日、24時間を原則としている。通所のほか泊まりと訪問介護まで行い、地域に密着してこまごまと行き届いたサービスができるのが最大の特色。

 職員は常勤7人を含んで計14人。認知症ケアの専門グループが「どんなサービスを受けたいか?」と自問しながらニーズを集約するとともに、同施設は介護施設と地域福祉の拠点という「二足のわらじ」を唱え、「もちつもたれつ」「地域で育てる施設」「認知症の啓発」「庭を守る」という目標を掲げている。

 利用は、通所が連日ほぼ満員、泊まり介護は最近では月間延べ100人前後、訪問介護5、6人と、軌道に乗ってきている。一方で昨年11月には認知症介護の専門家による講演会を開くなど、安心して暮らせる町づくりを目指して、地域への啓発にも努めている。同時に県内外から視察がこの2年度で計38回に及び、小規模多機能型施設の先進例として注目されている。

 地元では「新兵衛を守る会」が発足し、現在の会員25人。高齢者のための滋賀県レイカディア大学で剪定(せんてい)技術を学んだ人や有志らによる庭園の管理や清掃、調理手伝い、コーヒーサービスや話し相手など、それぞれの得意分野を生かして協力。「ボランティアが自らの生きがいとなっている」との声が聞かれ、地域との連携が広がっている。

 同施設の設立から携わる南部直美所長は「小規模多機能型介護は、始まったばかりです。認知症ケアという息の長い課題のなかで、毎日の着実な実績を重ねることを最も大事にしています。利用回数を増やすことや訪問介護の要員の定数などさまざまな点で課題を感じていますが、お年寄りが地域で暮らし続けるためにはいい制度です。新兵衛さんを自宅の居間のようにしながら、優しい介護で応援していきます」と語っている。


<メモ>東近江市社会福祉協議会「かじやの里の新兵衛さん」
東近江市佐野町35 TEL.0748(42)8377