ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

老後の楽しみ

PHP総合研究所社長
江口克彦
 老後の楽しみにというわけでもないが、このところ数年、俳句作りに精出している。
 私が俳句を作るようになったのは、ある句会に所属している部下からけしかけられたからである。俳句を作るといっても、あまり経験はない。中学校のとき、国語の時間に「赤に黄にはらはらと散るもみじかな」と作って先生にほめられた。俳句に関心を持った最初である。
 その後俳句とはまったく縁がなかったが、就職して事業場に「句会」があって、これは熱心に誘われて入会した。入会したが、日々の忙しさにあまり句会に出席することは出来なかった。俳人秋元不死男先生が指導されていたが、あるとき私が投句した「とろとろと日向ぼこする我不在」を特選に選んでいただき、おおいにほめてくださった。これも覚えている。それで熱心になったかというとそうでもなく、相変わらずあまり出席はしなかった。
 その程度だから、俳句を作りましょうといわれても作れるものではないが、まあ、やれないことはないだろうと軽く思い込んで作り始めた。もちろん簡単に出来ない。「句は苦である」と思うほどであった。
 最初の句集『京師』を出すときに、俳人の秋山巳之流氏から、コテンパンに批評された。一言一言ごもっともで、しょげ返っている私を哀れと見たのか、結局は、出版を勧めてくれて上梓(し)に至るのであるが、それから秋山氏の音頭で堤清二氏、向田貴子氏、藤田あけ烏氏、稲畑廣太郎氏などなど錚々(そうそう)たる俳人を集めて句会を作ってくれた。いまもなお月一回句会が開かれているが、私にはいい勉強の機会になっている。
 句を作るようになってから、句を通して自分の心情を見つめるようになった。仕事と俳句で、いま私の心は満たされているようになってきた。老後が楽しみである。


えぐち かつひこ氏 1940年名古屋市生まれ。
慶応義塾大法学部卒業。松下電器産業入社後、PHP総合研究所秘書室長、副社長などを経て2004年同研究所社長に就任。
著書に「心はいつもここにある―松下幸之助隋聞録」ほか。