京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 老いは衰ではない 総合人間研究所所長
早川一光
「先生! どうして年をとると歯が抜けるの?」
「それはな、体が弱って、歯ぐきが衰えて、歯が抜けるのではありませんよ。 年をとったら、かまなくてもいい、ひきちぎらなくてもいい…スルッとのどを通るものにしてくれという食道と胃と腸が歯を一本ずつ抜いていくんだ―」 「へえー、初耳だ、その意見は!」 「ぼくも初めて人に言うた!でも、よーく年寄りを診ていて、ようやく分かった」 「なるほど、いわれてみりゃ、その通りだ。 それなら、年を重ねると、細かい字が読めなくなる、新聞も“見出し”しか読めない。小さい字は頭が痛くなる―」 「うん! それはな、年をとったら、もう小さなものや、細かい物事は見るな!という体になったんや」 「ほおー、これも初めて聞く考え方!」 「だからさ、息子の嫁の部屋へいって、障子の桟などにたまったホコリを指でこすってみるなんてこと、すな!」 「えっ?」 「嫁も家守り、子育てで忙しいんや、細かいところまで手が回らん! 人の至らんところばかり見て歩くな―。見ても見ぬふりする眼(め)が“老いの目”だ」 「うーん、なるほど。足らんところがあっても“許して遣わす”…」 「うん! その心が老いの心さ」 「耳は?」 「年とると、低い小さい声がききとれなくなる。それは、息子夫婦がふすまを閉めて、となりの部屋で、低い声で “うちの年寄り、いつまでも生きてる…”という―、それを“え! いま何言うた”と聞くな。聞こえていても、知らん顔する耳が、老いの耳だ。補聴器で聞こうとするのがマチガイじゃ」 はやかわ かずてる氏 1924年愛知県生まれ。 京都府立医科大卒業。50年、西陣に住民出資の診療所創設。その後、堀川病院に発展し、院長、理事長を歴任。南丹市美山町の診療所長も務めた。著書に「わらじ医者京日記」など。
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