ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

初盆が「待たれる」

コラムニスト 木下明美
 夏はほとんどの家庭でクーラーを使用し、それにテレビで「夏の甲子園」を観戦すると、電力供給が一杯一杯になるそうですが、わが家は一年中で夏が一番電気代が少ないという変わった家です。理由は簡単で、エアコンが無いからです。
 わが家は洛外の愛宕(おたぎ)郡が上京区になり、それから現在の左京区になったその東端にある築後80余年の老朽家屋で、この辺は洛中より気温が2、3度は涼しく(冬はその分寒いですが)、南北の窓をガタピシ、がらっと開けると風が通り、ときにはトンボも通り抜けます。
 この家に生まれ育った夫は、そこへ住むはめになった私と30数年暮らしていますが、新婚旅行の時に着て行った服を今も愛用し、食事のうまいまずいを言わず、暑い寒いも言わない「昭和生まれの幕末男」で、めっぽう夏に強く、「本当に暑いのは10日か2週間のことだっ! その10日か2週間のためにクーラー買って、高い電気代払うのかっ!」が持論です。
 クーラーなしのメリットを強いてあげれば、汗はだらだらかきますが、一風呂浴びた後のビールは格別です。そしてクーラーによる、だるさ、関節痛、秋になっての疲れなど無縁で、「先住民」である夫の母はクーラーを知らず91歳まで生きました。しかし子供たちは別で、「夏は友だちに来てもらえん」と、はやばやと家を出て行きました。子を早く結婚させるにはクーラー無しに限るようです!?
 でも子どもたちは「オトウが死んだら、初盆にはクーラーを入れるっ!」と待ち構えています。それで私も「賛成!」と言うと、幕末男は平然と言います。
 「いいよ。だけどオバーハンみたいに長生きできんぞぅ!」
 それは困ります。直ぐは行きたくないし・・・。


きのした あけみ氏 1946年京都府生まれ。大阪女子大国文学科卒業。本の情報誌「ウイメンズブックス」初代編集長を経て、現在はコラムニスト・ジャーナリストとして活躍中。著書に「女の言葉が男を変える」など。