ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

視点を変えて

立命館大名誉教授
芝田徳造

 障害のある人々についての社会一般の考え方には、「弱い人」「遅れた人」などのマイナスイメージにつながる場合が、少なくないと思います。しかし、障害のある人々の存在が、社会を大きく前進させている側面も、見落とさないでほしいと思います。
 その一例がバリアフリーです。例えば階段のある所にスロープをつけることが、かなり前から建築基準法等で規定されるようになりました。これは足の不自由な人の便宜を考えたものですが、最近ではこれがさらに進んで、通路のすべてをスロープ化するとか、駅の階段にはエレベーターをつけるなどが「ユニバーサルデザイン」の名の下に進められています。
 これらは障害のある人だけでなく、お年寄りやおなかの大きい女性、そして病気の人にも大変役立ちます。このことは、障害のある人々の存在が、より多くの人々の住みよい環境づくりに貢献したことを意味します。
 また、障害児の教育についても同じことがいえます。障害のある子どもたちの発達を求めた先生方の努力が、よりきめ細かな障害児教育の内容を創造し、それが教育一般の内容改善にも大きく役立っています。これも障害のある子どもたちがいるからこそ実現したものです。
 さらに北欧の障害者運動から始まった「共に生きる運動」(ノーマライゼーション)は、子ども・老人・病人・妊婦・障害のある人など社会的に弱い立場の人々を、一般市民が温かく包み込むようにして「共に生きる社会を目指す運動」です。このような考えや運動が全世界に広がれば、やがて戦争や飢えに苦しむ人もしだいになくなるのではないかと思います。
 この高邁(こうまい)な理念や運動も、障害のある人々の存在が作り出した貴重な人類の財産といえます。


 しばた とくぞう氏 1926年京都府生まれ。立命館大法学部卒業。立命館大教授、京都障害者スポーツ振興会会長などを歴任。現在、立命館大名誉教授、日本身体障害者陸上競技連盟会長。著書に「スポーツは生きる力」ほか。