ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

鶴見和子さんと着物

コラムニスト 木下明美
 この夏は手持ちの夏着物のすべてに手を通しました。夏着物で街をゆくといかにも着物通にみえるのでございます! 本麻や上布は見た目も涼しげですが、着ている当人も本当に涼しいのです。

 先日お亡くなりになった鶴見和子さんの京都新聞紙面に掲載された写真の凛(りん)として奇麗だったこと! 蘇芳(すおう)という和色の赤がお好きで、写真の帯締めも蘇芳でした。加齢とともに赤に帰って行くというのもいいですね。還暦記念に私も蘇芳を纏(まと)いたいと思っています。

 鶴見さんは、戦前にアメリカに留学。開戦時に交換船で帰国されたという社会学者でしたが、途中から疑問をもたれて、「日本」に出合われたのです。着物を着た「女学者」としても有名で、インドの女性たちが堂々とサリーで世界をゆくごとく、日本人もそうすればいいのにとおっしゃっていました。洋画輸入の川喜多かしこさんもそうでしたね。いつも紫の着物だったとか。外に出ることによって「日本」に出合う、着物もそのひとつです。

 着物は体をしばる不自由な衣装だとフェミニズムの立場から思っていた私でしたが、鶴見さんの『きもの自在』で着物を着る動機づけをいただき、いまではしっかり悔い改めて着物好きに(笑)。「きものは直線裁(た)ちだから、着る人の姿勢と思想と暮らしぶりによって、変容自在である。解けば一枚の布に戻るので、仕立て直しもできる」─加齢とともに豊かになった体を無理して格好いい窮屈な既成服に合わせることはないのです。

 欧米の女性たちがココ・シャネルによって窮屈な洋服から解放されたのとはちがって、考えれば着物ははじめから自由なのです。9月は秋単衣(ひとえ)の季節。単衣好きとしてはしばらくこの季節をたのしみたいものです。



きのした あけみ氏 1946年京都府生まれ。大阪女子大国文学科卒業。本の情報誌「ウイメンズブックス」初代編集長を経て、現在はコラムニスト・ジャーナリストとして活躍中。著書に「女の言葉が男を変える」など。