京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 滋賀の温もり 立命館大名誉教授
芝田徳造
滋賀県の近江八幡市にキリスト教系の学園があります。同学園は校祖の教育理念「イエス・キリストを模範とする人間教育」を、忠実に実践する敬虔(けいけん)な学園としても有名です。
数年前、同学園は高等部校舎の増改築を行いました。その際、将来障害のある生徒が利用する場合を考え、エレベーターや各階に男女障害者用トイレを設置するなど、他校にはないバリアフリーを実践しています。 これを知った重度の障害のある中学生(電動車いす使用)が受験して合格、以後、片道一時間の通学を母親の車で行うことになったのです。 これを受けて学校では、毎日校門で担当教員が待ち受け教室まで誘導、授業中のトイレは携帯電話の連絡で副校長が駆けつけるなど、温かい配慮が学校をあげて行われてきました。 これは同学園が、その教育理念から当然のこととして実施したものですが、私はさらにその根底に、滋賀県民の心に共通する「温(ぬく)もり」の存在を感じます。 この県民の心を培ったルーツの一つに、戦後一貫して「この子らを世の光に」と、障害のある子どもたちの療育に身命を賭けられた、糸賀一雄先生の存在があることを忘れてはならないと思います。 先生は終戦直後、同志と共に「近江学園」を創設され、以後二十三年間家族ぐるみの苦闘のなかで、びわこ学園にいたる七つの施設を次々と建設されています。そして研修会での講演中に倒れられるまで、終始障害のある人々の療育に献身されたのです。 この先生の生きざまが、多くの県民の温かい心を揺り動かし、それが質の高い滋賀の福祉風土の形成にも、少なからず影響しているものと考えます。 しばた とくぞう氏 1926年京都府生まれ。立命館大法学部卒業。立命館大教授、京都障害者スポーツ振興会会長などを歴任。現在、立命館大名誉教授、日本身体障害者陸上競技連盟会長。著書に「スポーツは生きる力」ほか。
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