ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

老いに立ち向かう先達

コラムニスト 木下明美
 波長があって親しいE氏の著書には、老いに立ち向かう先達の心構えが書かれていて参考になります。まず、「星を仰ぎ見ながら希望が持てるか持てないかが、分かれ道。持てなければもう老年である」として、やがて来るであろう「老い」を迎え撃とうと気合を入れておられる。

 そして、「自分がいかなる老年を好ましいと思うのか。私自身はさしあたって3つの願望を持っている。一つはいくつになっても会いたいと思う人がいること。次に、いくつになってもやりたいことがあること。そして、最後に、いくつになっても進歩しつづけたい。少なくとも進歩することを心がけていたい」と。

 先日、雨の降る夜に、私はひとりで、「会いたいと思う人」に会いに出かけました。日本が世界に誇る天才ジャズ・ピアニスト、秋吉敏子さんの木屋町三条「RAG」でのライブ! まぢかに見る若々しく快活で、ときにはヤンチャな表情とノリノリの掛け声。旧満州で生まれ、26歳で渡米。日本人として初めて「国際ジャズ名声の殿堂」入りを果たし、今年で音楽生活六十周年。その名曲のほとんどが「日本文化をジャズに注入してジャズの歴史を豊かにするよう努力した結果のジャズ」=「日本人のアイデンティティーを内包したジャズ」なのです。

 秋吉さんの生演奏を初めて聴いた女性が、「私の寿命を上げてもいいから、100歳超えても現役でいてほしい」と言ったとか! 往々にして女性は、誰かといっしょでないと行動できないひとが多いようなのですが、「会いたければ」「やりたければ」一人ででも出かけて行く好奇心と勇気をいつまでも持っていたいものです。おかげでいまだにあの夜のジャズピアノの快音が胸と耳に響き、苛烈(かれつ)に生きるひとに会った興奮から冷めないでいます。



きのした あけみ氏 1946年京都府生まれ。大阪女子大国文学科卒業。本の情報誌「ウイメンズブックス」初代編集長を経て、現在はコラムニスト・ジャーナリストとして活躍中。著書に「女の言葉が男を変える」など。