ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

人間の可能性

立命館大名誉教授
芝田徳造

 障害のある人々のスポーツの中で「人間の可能性」について、思い知らされたことが何回かあります。そのうち、目の不自由な人々について少し述べてみます。

 いまから40年ほど前、偶然にも目の不自由な人々の体育授業を担当することになりました。当時の私には、そのような経験は全くありませんでしたので、最初の受講生に「以前はどんなことをしましたか?」と、尋ねました。すると、その答えの中に「盲人野球」と言う言葉がありました。

 その言葉を聞いたとき、私は自分の耳を疑いました。私には「目の不自由な人が野球をする」と言うことは、想像することさえできなかったからです。そこで「次の週にそれを私に見せて下さい」と頼みました。そして、それが私の目の前で展開されたのです。

 少し目の不自由なキャッチャーが手をたたく方向へ、全く目の不自由なピッチャーが全力でハンドボールを転がし、その転がる音を聞きながら、全く目の不自由なバッターが見事にそれを打ち、味方の手をたたく一塁へ全力で走るのです。

 これを見て、私は目から鱗(うろこ)の落ちる思いをしました。そして「人間にはこんなに素晴らしい可能性がある!」と、衝撃的な感動を受けたものです。それ以来、私は障害のある人々のスポーツのとりことなりました。

 もう一つ付け加えますと、私の知人に全く目の不自由な弁護士がいます。氏は点字で司法試験に合格した日本最初の人として有名ですが、さらにモンブラン3,650メートルからのスキーによる滑降や、ヒマラヤ8,000メートル登頂など、人間の可能性の極限まで追求され、私の度肝を抜いた数少ない人の一人です。


 しばた とくぞう氏 1926年京都府生まれ。立命館大法学部卒業。立命館大教授、京都障害者スポーツ振興会会長などを歴任。現在、立命館大名誉教授、日本身体障害者陸上競技連盟会長。著書に「スポーツは生きる力」ほか。