京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 赤ん坊ってね 総合人間研究所所長
早川一光
みんな裸で生まれます。
そうでしたね。ぼくも人さまの生まれる枕元に何度も立ち会いましたが、皆さん、真っ裸で生まれてきます。 フンドシをして生まれた赤ん坊―見たことありません! 顕微鏡でないと見えない卵から、まさにお父さんの精を受けて―一期一会―! たった十カ月と十日で、もうスイカの玉のような大きさになって出てきます。それも狭いせまい真っ暗な一本道をくぐり抜けて…。三時間も四時間もかけて、お母さんを痛ませ、苦しませて…。 お産の時だけではありません! おフクロの袋の中で、しっかりとくっついて、細い管から栄養と酸素を頂いて…。 その間、何重にもおなかの皮で守られ、腹水という水の中に、それも、子の宮という厚い室の中で、羊水という水の中に浮かんで、十重二十重とたいせつに大切に育てられてきました。 全く、ありがたいことです。 こんなにオフクロに守られて出てきた時、なんにも持たずに出てくるんです。 全く、厚かましいことです。 出てきた赤ん坊が、みな、モミジのような手を握ったまま―何か握って出てきたようなので、一本一本広げてみても、ナンニモ持ってないんです。せめて、母さんに手みやげ≠ナも! と思いますが…なんにもないんです。 それでいいんです。 無ほど尊いものはありません。 ただ、親への無上の感謝の心さえ失わなければ、いいんです。 やがて、ご両親もひとつずつ、身にまとったいろんなものを、脱ぎ落とし、そしてついにはまた、裸になってこの世を去って行くんです。 人間って生まれる時も無一物、死んでいくときもまた、無一物! それでいいんです。 はやかわ かずてる氏 1924年愛知県生まれ。 京都府立医科大卒業。50年、西陣に住民出資の診療所創設。その後、堀川病院に発展し、院長、理事長を歴任。南丹市美山町の診療所長も務めた。著書に「わらじ医者京日記」など。
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