ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

赤ん坊ってさ

総合人間研究所所長
早川一光
みーんな、歯なしで生まれます。
どうして? どうして? 赤ん坊に歯がないの?…。年をとったから? いえ、ちがいます。
それでは、歯のないハナシをしましょう。
それは、赤ん坊は「噛(か)まないでいいものを、入れて下さい」という赤ん坊の訴えで、歯を無くして出てくるんです。
お母さんの〈お乳〉か牛乳か、ミルクにしてくれという願いなんです。
ウソやと思われるんでしたら、赤ん坊に栄養があるからとスキヤキ≠食わしてごらん! 死にますわ!
それも5カ月たってようやく前歯が、それも下から2本生えてくるんです。そして1カ月たって上の前歯が2本姿をあらわします。
これを門歯といって、噛む歯でなくて、門番の歯です。イヤなものは閉じて入れないんです──時々、オフクロの乳首を噛みますが、あれは〈こんないいものない!〉と入ったまま門を閉めたんです。
みーんな、呆(ほう)けて生まれます。
みなさんも、お母さんから生まれた時、〈呆けて〉ました。おぼえていますか?
「いや、知りませんでした」って? そうでしょうよ…。
あの時、何もかも分かって知っていたら、そりゃコワイですわ! 真っ暗な1本道でしたから、オソロシかったはず――しかも、たったひとりで、あの暗いトンネルの中を〈提灯(ちょうちん)〉もつけずに出て来るんです。
「コワーイ! 里に帰らせてもらいます!」と叫んだかて、あそこは〈一方通行〉の道です──あとに決して戻れません。
呆けてて、よかったですなあー。
そのかわり、自分でお便所にいけません。皆、オムツの中で、3年ほど垂れ流しでしたなあー。みんな、みんな、オフクロに世話になりましたよなアー。さあ、こんど親が年をとって、ひとりでトイレにいけなくなったら、世話をして返そうね。オムツ替えでなくて、恩返しなんですわ。


はやかわ かずてる氏 1924年愛知県生まれ。
京都府立医科大卒業。50年、西陣に住民出資の診療所創設。その後、堀川病院に発展し、院長、理事長を歴任。南丹市美山町の診療所長も務めた。著書に「わらじ医者京日記」など。