京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 赤ん坊ってさ
総合人間研究所所長
早川一光
みーんな、歯なしで生まれます。
どうして? どうして? 赤ん坊に歯がないの?…。年をとったから? いえ、ちがいます。 それでは、歯のないハナシをしましょう。 それは、赤ん坊は「噛(か)まないでいいものを、入れて下さい」という赤ん坊の訴えで、歯を無くして出てくるんです。 お母さんの〈お乳〉か牛乳か、ミルクにしてくれという願いなんです。 ウソやと思われるんでしたら、赤ん坊に栄養があるからとスキヤキ≠食わしてごらん! 死にますわ! それも5カ月たってようやく前歯が、それも下から2本生えてくるんです。そして1カ月たって上の前歯が2本姿をあらわします。 これを門歯といって、噛む歯でなくて、門番の歯です。イヤなものは閉じて入れないんです──時々、オフクロの乳首を噛みますが、あれは〈こんないいものない!〉と入ったまま門を閉めたんです。 みーんな、呆(ほう)けて生まれます。 みなさんも、お母さんから生まれた時、〈呆けて〉ました。おぼえていますか? 「いや、知りませんでした」って? そうでしょうよ…。 あの時、何もかも分かって知っていたら、そりゃコワイですわ! 真っ暗な1本道でしたから、オソロシかったはず――しかも、たったひとりで、あの暗いトンネルの中を〈提灯(ちょうちん)〉もつけずに出て来るんです。 「コワーイ! 里に帰らせてもらいます!」と叫んだかて、あそこは〈一方通行〉の道です──あとに決して戻れません。 呆けてて、よかったですなあー。 そのかわり、自分でお便所にいけません。皆、オムツの中で、3年ほど垂れ流しでしたなあー。みんな、みんな、オフクロに世話になりましたよなアー。さあ、こんど親が年をとって、ひとりでトイレにいけなくなったら、世話をして返そうね。オムツ替えでなくて、恩返しなんですわ。 はやかわ かずてる氏 1924年愛知県生まれ。 京都府立医科大卒業。50年、西陣に住民出資の診療所創設。その後、堀川病院に発展し、院長、理事長を歴任。南丹市美山町の診療所長も務めた。著書に「わらじ医者京日記」など。
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