ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

160歳まで生きるわ


PHP総合研究所社長
江口克彦
 松下幸之助は生前しきりに106歳まで生きるとか、130歳まで生きるとか、時には160歳まで生きるとか、そのようなことをみずから言っては周囲を驚かせていた。

 106歳というのは松下が1894年生まれだから、106歳まで生きると、ちょうど21世紀に達し、19世紀、20世紀、21世紀と足掛け3世紀にわたって生きることになる。これは面白いということで、それを目指して生きようと言い出した。やがてわが国の長寿記録が124歳と聞くと、ならば自分は130歳までと言うようになった。

 160歳と言いだしたのは、80歳のとき、数えで言えば81、半寿という熨斗(のし)の付いたお祝いをもらった。どうして半という字を使うかといえば、半を分解すれば、81になる。それで満80を半寿と言うらしい。これを見て松下は満80歳が半寿、半分なら、完全に生き切れば、160歳やないか、それならわしは160歳まで生きるわ、ということになった。それで、松下は160歳まで自分がしたいことをいろいろと思い巡らし、計画するようになった。

 しかし、実際には、満94歳でなくなっているから、松下の意図は実現できなかったが、これをもって、松下さんは馬鹿げたことを考えていたものだと、笑うことは出来ない。そういう松下の意欲があったからこそ、最期の最期までボケなかったのだろうと思う。

 もう、あかん、もう、だめや、と思う心がボケを生み出してしまうのではないか。まだまだオレはいろんなことをやらんといかん。そう強く思い続けることがボケを防止することになるのではないかと思う。

えぐち かつひこ氏 1940年名古屋市生まれ。
慶応義塾大法学部卒業。松下電器産業入社後、PHP総合研究所秘書室長、副社長などを経て2004年同研究所社長に就任。
著書に「心はいつもここにある―松下幸之助隋聞録」ほか。