ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

愛敬の心

こどもみらい館 館長
浅野 明美
 3月の快晴の休日、久しぶりに湖西にある家の鍵を開けた。ろう梅は盛りを過ぎていたが、白梅もラッパ水仙も満開だった。

 甘い香りに和みながら一巡すると、チューリップは葉芽を伸ばし、シャクヤクは赤い芽を出していた。京都よりひと月遅いが、皆元気でホッとした。

 郵便箱は地域のお知らせなどであふれており、居間で一つずつ点検していった。この地域の月刊の広報誌は内容が多岐にわたり、読みやすい。一冊を手に取ると、何やら白い厚紙が足元に滑り落ちた。四つ折りを広げると、藤の花囲いの絵柄の大きなポスターだった。

 ひと通り文字を目で追い、しばし黙考。なんと、400年前に生を受けた人が、今の世にも通ずることを、たった5文字に思いを込めて表現されていることを知り、感動した。

 それは、近江聖人とされる中江藤樹の「五事を正(ただ)す」という教えだった。

 貌(ぼう)…愛敬(あいけい)の心をこめてやさしく和やかな顔つきで人と接しましょう

 言(げん)…温かく思いやりのあることばで相手に話しかけましょう

 視(し)…愛敬の心をこめて温かいまなざしで人を見、物を見るようにしましょう

 聴(ちょう)…相手の話に心をかたむけてよく聞くようにしましょう

 思(し)…つねに善の心、愛敬の心を持って視聴・言動することを心がけましょう

 愛敬とは、下を心をこめて愛し、上を敬うことをいい、中江藤樹の根本の教え「孝」そのものだという。

 常日ごろから、子どもたちも含め、さまざまな人々と接する際に、この教えに照らしていれば、この世からいさかいも、いじめも、虐待もなくなるであろう。

 自らへの戒めのためにもと、藤の花囲いのポスターと梅が枝を携えて帰京した。

 後日、役所に問い合わせると、「ご自由にお使い下さい」とのこと。感謝と共に、遠慮なく使わせていただきました。ありがとう。



あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。