ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

希望をつなぐ社会へ

佛教大教授 岡崎祐司
 子どもや青年は、夢を抱き希望を語ることを社会から保障されるべき存在である。しかし、交通事故や災害で親を失った子ども、あるいは自ら命を絶ってしまった親の子どもたちは、そのままでは夢や希望を奪われてしまう。遺児たちへの奨学金や心のケアを行っている“あしなが育英会”の活動は、希望をつなぐ貴重なものである。

 “痛みを伴う改革”に、少なからずの国民が声援を送ってから、何年になるだろうか。仮に一人一人が同じ程度の痛みを受けたとしても、その人の健康状態、体力や経済力の程度によって痛みの大きさ・感じ方は違うはずである。それほど痛みを感じない人、痛みを我慢できる人もいれば、大きな痛みを受け続けて心も体も生活も追いつめられ、希望さえも奪われている人もいる。

 “あしなが育英会”のホームページによれば、育英会の奨学金で高校進学した遺児の母親の平均年収は131万年(2003年)、一般家庭の3割を割り込んでいるという。遺児が大学進学の希望をはたせなければ、“貧困の連鎖”は断ち切れないと告発している。親を亡くした子どもは全国で50万人、年間の自殺者は3万人といわれている。遺児の生活や教育は、けっして人ごとではない。貸付総額年間20億円(06年度)に達している“あしなが育英会”の財政状況は、募金総額の減少で厳しくなっているといわれる。その存続は遺児だけではなく、わたしたち市民と政治の問題でもある。

 人の痛みがわかる市民社会をつくれるかどうか、政治がもっとも厳しい人々の希望をつなげるかどうか、問われている。市民や企業の募金を活発にすることはもちろん、政策的にも遺児の生活と教育の本格的な保障に踏み出すべきである。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。