ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

介護事業の不正問題

佛教大教授 岡崎祐司
 訪問介護事業最大手コムスンの不正問題が報じられたのは、6月はじめである。指定事業者になるための虚偽書類提出だけではなく、自治体の処分逃れのために事業所の廃業届けを提出していたことまで発覚し、事業者としてのコンプライアンス(法令順守)が問われている。

 介護サービスは、利用者である高齢者・障がい者の生活の場に入り、入浴や排泄(せつ)援助など究極のプライバシーにかかわるものである。従って、利用者の尊厳と人権を守るという目的以外に従属しない「事業目的の一元性」が求められる、というのが私の意見である。出資者への高い配当をめざすとか、他の事業目的のために資本蓄積を行うとか、利用者の利益以外の目的のために介護サービスを“利用する”ことは適切ではない。

 また、利用者の生活を「毎日」支える介護サービスの性質からいって、事業者の都合による撤退の自由も容易には認められない。従って、社会的使命が明確でそれを担保する体制と体質をもつ経営であることが、介護事業者に求められることは当然といえよう。

 だとするならば、介護保険事業の参入規制は緩和ではなく、厳しくするべきである。また、今回のような問題がおこったときに、サービス撤退で利用者が不安に陥らないよう、事業者まかせではなく迅速な行政のバックアップ体制が必要である。これらが、現行制度では十分ではないことが、明らかになった。そもそも、今回の問題の背景には低すぎる介護報酬の設定がある。多くの介護事業者は厳しい経営を強いられている。そのことが、介護現場の人で不足を招いている。介護サービスの質を維持するもっとも重要な方法は、介護報酬の引き上げである。コムスン不正問題から、利用者本位をめざす介護事業経営と介護保険制度の改善を追及する必要がある。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。