ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

強い味方

さわやか福祉財団理事長
堀田 力

 「お金の問題を解決するだけでなく、中国残留邦人らが心安らぐ、寄り合いの場所の設置が必要だ。たとえば、京都のエルファのような場所だ」

 私は、中国残留邦人問題を協議する厚生労働省の研究会で主張した。全委員がうなずいた。

 鄭禧淳(チョン・ヒスン)さんが立ち上げたNPO法人エルファは、東九条など京都市内4カ所を拠点に、訪問介護からデイサービス、障害者や子育ての支援など、多彩な活動を展開するが、何といってもその特徴は、在日コリアンたちの心のより所になっていることである。

 日本語が話せないのに戦後も故郷に帰れなかったコリアンたちの日々の不安は、言葉の通じない地域で暮らしたことのない私には、想像もつかない。そういう在日一世がエルファを訪れ、同様に年老いた仲間と出会うと、それだけで涙にくれ、ずっと手を握り合ったままでいるという。

 「私たちは、差別とたたかう日本人からも下に見られているんですよ」という鄭さんの言葉に、胸を突かれた。  しかし、彼女たちは明るい。日本人の職員も、ひきこもりだったのが、勇気を出してここで働きだしてから元気になったという。デイサービスに来るハルモニらも、子どもたちと大声で笑い、遊んでいる。

 そのエルファが、京都全域に住む外国人の高齢者、障害者たちの支援に乗り出した。京都モア・ネットという愛称で、市が助成している。

 支援の相手はコリアンだけでなく、アメリカ人、スイス人などにも及んでいるが、やはり悲惨なのは、言葉も通ぜず、助けてくれる友人もなく、年金ももらっていない独居の高齢コリアンたちで、エルファがその強い味方になっている。

 横浜のNPOも多様な外国人支援をしているが、エルファは群を抜いて頼もしい。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。