ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

遊びをせんとや…

こどもみらい館 館長
浅野 明美
 祇園祭が華やぎを終えるころから、うれし楽しの夏休み。昔の子どもは、私を含めてひたすらよく遊んだ。小学校の時の宿題の薄っぺらいドリルや工作は、8月最後の数日間での仕上げが勝負だった。御苑で母と共に色んなセミ、玉虫、カミキリ虫やトンボを捕ったこと、父に連れられて見た蚕ノ社の鳥居や鞍馬寺のたたずまいが印象深かったことなどが、今鮮やかによみがえる。

 近年の子どもたちの著しい体力低下や骨折の増加が話題となっているが、先日調べ物をしていて改めて驚いた。全国の小中学生のソフトボール投げ、持久走、50メートル走、立ち幅跳びの経年グラフを見ると、40年前と比べて、全種目で昔を上回るデータは皆無だった。転倒時に手が出ずに顔をけがする子どもが多くなったという話は、笑い話でも作り話でもない。

 もう一つのゆゆしきデータは、視力低下である。長時間のテレビ視聴やテレビゲームの影響であることは誰も否定できない。

 子どもたちの群れ遊びを見かけなくなった。路地(ろーじ)や小さな空き地で遊ぶ子どもたちの声や群像は遠い幻影となりつつある。石けり、ビー玉、鬼ごっこ…。

 かけがえのない家族や周囲の人々との思い出は子ども時代の宝物である。海や川での遊泳や魚釣り、野山で虫取り、山菜や木の実採り、歴史的な文物や建造物を見たり…帰り道に疲れて眠りこけるくらい、思いっきり体と五感を使い、笑顔いっぱいの思い出をお土産にしてほしい。後年、スライド1枚分の記憶しか残っていなくても、愛(いと)おしい記憶となることだろう。

 子育ての年代は働き盛りでもあり、休日は休みたいだろうが、長い人生の中で子どもと共に過ごす濃密な時間はそれほどは多くない。親として、元気盛りに最大限のことを、思いを込めて子どもたちにしておいてはいかがか。本格的な夏休み、たくさんのわくわくドキドキの遊びと思い出を子どもたちによろしく。


あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。