ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

社会保険への不信

佛教大教授 岡崎祐司
 参議院選挙では、社会保険不信が大きな影響を与えた。

 1960年代に「国民皆保険」ということで、社会保険としての年金保険と医療保険がすべての国民をカバーすることになった。その後、介護保険が導入された。“ある時期”まで、国民の社会保険への信頼は高かった。雇用が安定し賃金で生活することが可能だったこと、保険料負担が相対的に低かったこと、加入者は必要な給付・サービスを受けられたからである。もっとも、雇用や賃金が不安定な加入者が多かった国民年金や国民健康保険は、はじめから制度的問題を抱えていたのであるが。

 しかし今は、雇用が流動化し賃金も上昇せず、働いても生活できないワーキングプアが広がり、保険料負担や窓口負担に耐えられない人々が増えている。これに、加入していても必要十分な給付・サービスが保障されるのか不透明となれば、社会保険への信頼は揺らぐのは当然である。

 社会保険は財政に政府負担や企業負担も加わり、行政の運営責任が明確で、必要十分な給付・サービスが保障されるのが本来である。社会保険の“社会”の意味はそこにある。年金保険や医療保険、介護保険の社会的責任をはっきりさせて、再構築する必要がある。

 少なくとも、保険料と患者・利用者負担の増大に歯止めをかけ、給付・サービスを確実にしなければならない。しかし、雇用の流動化、賃金抑制が続くもとでは社会保険に加入できず、制度から排除される人々が増大する危険性がある。

 社会保険に頼りすぎる制度設計でよいのか、児童手当・普遍的な社会福祉・就労保障など「社会的包摂」や「ワークフェア」という理念をふまえて社会保障を再設計すべき時期にあるのかもしれない。もっとも、財源確保という難題がついて回るのだが…。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。