ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

重陽の節句に思う

こどもみらい館 館長
浅野 明美
 洋の東西、古今を問わず、「不老長寿」は帝王から庶民までの願いであり、あこがれである。健やかによわいを重ねたいと誰しも思うが、病を得たりけがをしたり、なかなかそうはうまくはいかない。いったん生を受けた生きとし生けるものはすべて例外なく、時の流れにあらがえず「死」に至る。

 どのようにすてきに年を重ね、「死」を受け入れていくかは、いつの時点から準備を進めても早過ぎることはない。五十路の私自身、いまだ手探り状態ではあるが、決して遅過ぎるとは思っていない。長く続けられる趣味やコレクション、「いつでも行けるわ」と、行けていない名所・旧跡巡り、老若男女との交流を深めることなど、そして失敗を恐れずに、新たなチャレンジもぜひしてみたい。

 重陽の節句は9月9日、本日である。「九」という陽の数字が重なる縁起の良い日とされ、菊の節句(供)ともいう。

 前夜に菊のつぼみに真綿をかぶせておき、一夜明けた朝、夜露をたっぷり含み、菊の香りの移った真綿で顔や体をふき、「不老長寿」と、「無病息災」を願ったという。赤い菊には白、黄菊には赤、白菊には黄の真綿がかぶせられ、折敷(おしき)に美しく並べられ、思い人に届けられたとも。

 なんとみやびで、彩りや香り、そして心の豊かな節句であることか。美しいいにしえの年中行事の一つであるが、今の日本人はその心のありようさえも忘れてしまっているのではないだろうか。雛(ひな)や端午、七夕に比べて、重陽の節句そのものが廃れているのが悲しい。上賀茂神社の神事として今は残る。

 自らの身の丈を知り、でき得る限り時の流れを楽しみ、また少しはあらがいながら、周囲の愛する人々とともに年を重ねたいと思う。そして今の京都に住まう喜びや有り難さをもっと感じ、知り、親しんで年輪を増やしていきたい。日本は世界一の長寿国ですもの…。


あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。