ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

少年院でなされていること

精神科医 定本ゆきこ
 非行を犯した少年の内、比較的問題が深い場合、少年院に送られ矯正教育を受ける。少年院では何がされているのだろう。

 そもそも非行少年とは、どのような子どもたちなのだろうか。違法行為(悪いこと)をしているのだから「悪い子」たちなのだろうと思うのだが、実はそうではない。ほとんどの子は、会ってみると、案外素直で悪気がない。「悪い」というよりも「ドジな」「うまくやれない」あるいは「生きにくさを抱えている」子どもたちだと感じるのである。

 例えば、大部分の少年たちの基礎学力は非常に低い。漢字を知らないし、計算力も低い。分数が理解できている子は1割くらいだろう。

 知的な遅れがあるわけではなく、小学校の時点で心身に安定が保てず、授業や課題をきちんとこなせていなかったり、家庭で落ち着いて学習する環境を備えられなかったりというような事情があるのだが、結局、思春期になった時には、そのような自分にプライドが持てず、目標も抱けず、学校に居場所がなくなり、逸脱的な生活に傾いてしまう例がほとんどなのである。

 社会に健全な形で参加していくために、「ある程度の」学力は必要である。あいさつや人とのコミュニケーション技術など、対人スキルも必要だろう。社会の基本的なルールを理解し、衝動に身を任せず、自分をある程度コントロールできる方法も学んでおきたい。これらのものが、非行少年においては全般につたない。社会の中でうまく適応して生きていくすべが身に付いていないのである。

 少年院では基本的な行動訓練、生活指導、教科教育、職業補導などを軸としたさまざまなメニューをそろえ、少年たちに社会で適応的な形で生活していけるための力をつけようとする。就労や結婚など正しい形で社会に参加し、周囲の人々と良好な関係を築いてほしいとの願いのもとに。そのことが、最も強力な非行の抑止力になるのだから。


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。