京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 性教育は必要です精神科医 定本ゆきこ
現在、文部科学省は、性教育を積極的にはさせない方針でいる。東京都の養護学校で、性に関する無知から、性の加害・被害者になってしまいやすい子どもたちのために採用された、図や絵を多用した具体的で分かりやすい教科書が、行き過ぎだと弾劾されたことが発端であった。
しかし、今日、雑誌やテレビ、そしてインターネットの飛躍的な普及により、膨大な量の情報が、子どもたちに流れ込んでいる。もはや小学校入学前後から、商品化され即物化され、歪曲(わんきょく)された性の情報にさらされているのが現実だ。 日ごろ子どもたちに接している者として、私は、思春期の性行動に、大変な危うさを感じている。男の子の場合、特にコミュニケーション能力が未熟で、社会性が育っていない中で性衝動が突出しているのを感じる。相手の気持ちを察したり、二人の関係性の深さを読み取ったりすることができないままに性衝動が暴走し、それが時に性加害行動につながっているのだ。 女の子の場合、思春期、依存欲求が強まり、自分を受け止めてもらいたい気持ちが、密接な二者関係を求めさせる。それは本来親や家庭に向けられるものであるが、何らかの理由で家庭に依存を受け止めてもらえない少女が、自ら危険な性行動に向かいやすい。多くの場合、傷付くが、自らを罰するように、また性に向かっては傷付く。家庭に居場所を失い、消費社会に踊らされている痛々しい姿がそこにある。 性教育は必要であると確信している。できれば小学校から始めたい。ただし、それは道徳教育や純潔教育といったものではない。性とは、会話ややり取りを通じて互いを知り合い、思いやりあう中で開かれていくコミュニケーションの深い形であることを伝え、性を大切にする姿勢から、人間と個人の尊重されるべき意味を考えさせる人間教育のことである。 さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。
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