ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

混合診療の危うさ

佛教大教授 岡崎祐司
 保険給付診療と保険給付外診療の双方を受けた場合に、全額患者負担になるのは不当だとして、ある患者が起こした裁判で、東京地裁は11月7日、「混合診療」を禁止する法的根拠はなく原告に保険診療の受給権を認めるとする判決を下した。これに“便乗”したのかどうかわからないが、政府の規制改革会議が「混合診療」の全面解禁を第二次答申に盛り込む方針だと報道されている。

 「混合診療」とは、健康保険適用の診療と保険のきかない(患者負担の)自由診療を併用することであるが、保険診療に関する国の規則で禁止されている。

 「混合診療」を導入すると、1)有効性・安全性が確かめられていない保険外診療と保険診療が併用される2)新しい治療法や医療技術が患者負担の自由診療に回される3)保険診療自体が縮小され、いままで受けていた診療部分も患者負担になってしまう、などの危険性がある。

 日本の健康保険は、お金のある人もない人も保険証1枚で必要な医療を受けられることを基本にしてきた。あいつぐ保険料と患者負担の引き上げで今そのこと自体が揺らいでいるが、「混合診療」拡大は健康保険制度を立て直すことなく経済的能力によって受けられる医療に格差をつけ、日本の医療制度を強者優先に変質させる可能性が高い。

 必要なことは、保険給付範囲の拡大と新規治療の承認期間の短縮、先進医療の充実であろう。

 それにしても、だれが「混合診療」解禁を強く求めているのか。私には、米国の民間保険会社、医療関連産業のように見える。解禁へのシナリオをだれが書き、そのことでだれが利益を得るのか。「混合診療」の意味はそちらからとらえたほうがよいのかもしれない。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。