ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

子どもと宗教

精神科医 定本ゆきこ
 高校生の娘が、ある日、「お寺に行きたい、座禅を組んでみたい」と言う。学校の倫理の授業で、初めて仏教について学び、心引かれたらしい。生徒に、分かりやすく仏教の教えを伝えてもらえたことをありがたく思いつつ、知人の山寺を訪ね、私にとっても久しぶりの、静寂な時を親子で過ごした。

 子ども時代に終わりを告げるころ、人は、「生きるとは何か」「自分は何のために生き、そして死ぬのか」という問いに出合うことがある。また、進路や目標を見失い、恋愛や人間関係に悩む時、それでも生きていくに値する価値や意味を求めることがある。自分が自分になるために、人は、大なり小なり、目に見えないものを感じ取り、あこがれ、求める気持ちを持っていると思う。

 周知の通り、日本の公教育において、宗教は一切触れられない。国家神道が挙国一致の戦争に利用された、余りにも忌まわしく悲痛な歴史が主な理由なのだと理解はできる。しかし、その結果、宗教全般に対して余りにも無知、そして無防備というのが、大方の日本の若者の状況である。

 一方で、11月に入るや街はクリスマス一色である。どのキリスト教国よりも早くから華やかなツリーが飾られ、高価なプレゼント商品であふれる。しかし、一体どれだけの人が、救い主が、最も貧しい姿で、この世にお生まれになったというクリスマスの本来の意味を知っていることだろう。奇妙な光景だと、私はこの季節になると思う。

 洋の東西を問わず、信仰によって、傑出した生き方をした先人たちの生涯と思想は、今も私たちに感動や生きる指針を与え続ける。この素晴らしい精神文化を子どもたちに全く伝えることができないのも、残念なことだ。特定の宗教や思想に偏らないように注意しながら、そろそろ私たちの社会も、アレルギーやタブー視をなくし、良識とバランス感覚を持って、宗教に向かうことはできないだろうかと思う。


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。