ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

少年と仕事

精神科医 定本ゆきこ
 非行から立ち直るきっかけになるものの一つに、仕事がある。良い職場を得て、やりがいの感じられる仕事と出合った時、少年は、自分自身を社会の一員と自認し、必要とされる人間として責任を持って生きることを知っていく。

 実際、勉強が好きではなく、学校ではまじめに授業に出なかったのに、仕事に就くと、積極的に取り組み、精を出して働くようになる少年は少なくない。彼らにとっては、じっと座ってする勉強よりも、身体を動かしてやる仕事の方が性に合っているのだろうし、給料という具体的な報酬が得られるのも大きな理由だろう。規則正しい生活リズムが身に付くことが、まずは意義深いし、辛さや面倒くささを我慢して作業に取り組むことで、達成感を感じ自信がついてくる。仕事を通して明確な目標が見い出せるようにもなると、顔つきまで変わってくるものだ。

 私は、このような少年たちを見ていると、皆が皆、高等教育を受ける必要はないのではないかと思ってしまう。もちろん、勉強の好きな子どもは上の学校に行けばよいが、そうでない子は、義務教育を終えた段階で、自分の適性にあった仕事に就き、やりがいを持って働き始める方がよほど健康的な生活が送れるのではないかと。

 ところが、そこで必ず突き当たるのが、今日の日本に重くのしかかる若年者雇用の停滞である。働きたくても仕事がないのだ。私が、わけても残念に思っていることの一つが、第一次産業の衰退である。本来、国力の基盤であり、男子にとって実に誇りの持てる仕事なのである。体力とエネルギーの有り余っているこの少年たちに、農業や漁業に従事するという道がもっと豊かに開けていたらどんなに良いだろう。片や、日本の食料自給率は40%を割ったと聞く。戦後の農業政策は一体何だったのか、この国の未来はどうなっていくのかと大いに疑問だ。

 少年問題を考えていると、どうしても政治と国策の話にいきつく。


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。