ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

思春期の子どもの心

精神科医 定本ゆきこ
 思春期とは、人が子どもから大人に移り変わっていく時期である。性ホルモンの影響で身体が大きく変化していくが、それに伴って心にも変化が及ぶ。

 まず、「自分」のことがいつも気になるようになり、「自分とは何か、どんな存在なのか」という問いが内側から芽生えてくる。それまでの時期(学童期)は、遊びやスポーツなど外の事に関心の中心が置かれ、そこに熱中して取り組むことで心身が大きく発育するのだが、思春期になると関心が、外から「自分」に引き寄せられる。

 他人の目がいつも気になり、人のちょっとした言葉かけで落ち込んだり、有頂天になったり。人からの刺激にとても敏感で、それによって大きく揺れ動く。そんな中で、進路や進学、クラスの友達関係や異性関係、さまざまな課題に直面しなければならない子どもたちは、大人が思っている以上に不安を抱えているものだ。だから、身近な大人に対してとても依存的になる。心細く自信の持てない自分を誰かに丸ごと受け止めてほしい、肯定してほしいのである。

 一方で、自己主張ができてきているので、大人には反発をするようにもなる。昼間は偉そうな口をきいている子どもが、夜になると寂しがって、母親の布団にもぐりこんできたりする。親に反抗して言うことを聞かないくせに、べたべたとひっつき甘えてきたりする。依存と反発、一見矛盾しているようだが、どちらも思春期の子どもたちの本当の姿である。この依存と反発をしっかり受け止めてやることが、子どもが大人になっていくために必要な手助けである。

 思春期は、誰にとっても難しい時代である。だから、学校に行けなくなったり、非行を犯したり、いろいろなことが起こる。でも、そんな時は慌てずに、子どもの言葉に耳を傾けてほしい。きっと、欲得や打算のない純粋な心に、こちらが胸を打たれるはずだから。  


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。