ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

学生よ、地域へ行こう!

佛教大教授 岡崎祐司
 5月1日、京都市北区小野郷、空は晴れわたっていた。手に苗をもち裸足(はだし)で田んぼに入った学生たちは、足をとられながら歓声をあげている。秋に収穫するもち米の田植えの始まりである。5アールの田んぼに、43人の学生が田植えをしている姿は「壮観」でさえあった。ついに、地域と大学の交流がはじまったのである。

 過疎化と高齢化、子どもの減少がすすみ、小野郷小学校・中学校が休校になった。そこで、高齢者向けの福祉サービスを学校跡地で実施できないか、そんな要望が地域から行政に届いていた。その後、行政と社会福祉協議会の仲立ちで私たち佛大の教員が役員さんと出会うことになった。

 小野郷自体のまちづくりはどうしていくのか、住民主体の福祉活動も必要なのではないか、農業を含め地域産業の活力をどう再生していくのか、わたしたちは率直な思いを役員のみなさんに投げかけた。そして、「まちづくり推進委員会」が立ち上がり、自治会長さんから、学生と農業を通して交流したいという要望がだされるようになった。

 「小野郷へ行こう!」を合言葉に4人の教員が呼びかけたところ、1週間で43人の学生が集まった。地域福祉に関心をもつ実践志向の強い学生たちである。住民から田植えのコツを教わり、見学にきたお年寄りと談笑し、住民といっしょに蓬(よもぎ)を摘み、地域でつくっていただいたカレーライスを食べた。見学や調査という形ではなく、地域のなかに入って住民と交流し、地域づくりの理論と実践を自身の体験を通して結び付けてほしい。それが実現できたのである。

 学生は、小野郷でなければできない体験をすることができた。感謝の言葉もない。このなかから、次代の地域づくりの担い手が誕生するはずである。「また、小野郷に行こう!」、体験した学生たちの合言葉になっている。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。