ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

新しい保育メカニズム?

佛教大教授 岡崎祐司
 社会保障審議会「少子化対策特別部会」が、5月20日に「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けた基本的考え方」という報告をまとめた。保育所利用に関して保護者と保育所との直接契約方式の導入を「さらに検討する必要がある」とした。保育所を応援している立場からいうと、保育制度の土台を揺るがしかねない内容であり、率直にいって疑問をいだかざるをえない。

 報告では「新しい保育メカニズム」という用語が使われている。これは、研究者のあいだで「準市場」や「疑似市場」といわれているシステムのことである。ややこしい説明で恐縮だが、
  1. 保護者は保育所との直接契約により保育サービスを利用し、
  2. 制度的に保育にかかる経費の何割かを保護者に直接的に給付する、
  3. 保育所は保護者の受け取る給付を代理受領し保護者の直接負担と合わせて収入とする、
というシステムである。

 一見すると保護者が自由に保育所を選べて良いと思われるが、問題も多い。保育は一定の時間をかけて子どもを育てる事業であり、契約前(サービス提供以前)にその質を保護者が判断することは難しい。場合によっては保育者が親の悩みやしんどさを共有し、特別な配慮を必要とする子どものために予想外の時間をかけることもある。生活する親と成長する子どもを対象にしているので、サービスのすべてをあらかじめ契約書に網羅することは不可能だ。

 また「準市場」システムは、保育所に日々の出来高経営を迫ることになる。これは、子どもの利益以前に、まず経営の成立を迫る本末転倒の状況を生み出す危険性がある。保育所は地域の子育ての拠点であり、契約者のためだけの施設ではない。地域の施設となるべきだ。現行制度の改善は必要だが、子育ての共同をはぐくみ、保育所の公共性を守る提案が求められる。


おかざき ゆうじ氏 1962年京都市生まれ。佛教大大学院博士後期課程単位取得満期退学。同大助教授を経て、社会福祉学部教授。専門は福祉政策、地域福祉。著者に「現代地域福祉論」「現代福祉社会論」など。