ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

祇 園 祭



こどもみらい館 館長
浅野 明美

 シャキッとした浴衣に黒塗りのげた、母に手を引かれ、この日を楽しみに訪れたいとこたちと宵々山の夜によく繰り出した。華やいだ人波に身をまかせながら、金魚すくいやヨーヨー釣り、ゲンジの店で遊び、ラムネや海ほおずきを買ってもらった。お囃子(はやし)の音色やリズムに、今は「序」「破」「急」のどの辺りかなぁと分からぬままに耳をそばだてたり、床几(しょうぎ)を出して家の前での花火も楽しみだった。

 浄妙山の立て札を見て、振り仮名通り「じやうみやうやまぁ」と大声で読み上げ、周りの大人たちの失笑を買ったことも。蟷螂(とうろう)山のカラクリの巧みさや、鯉山の滝登りの鯉の大きさに声が出ないくらい感動し、山鉾の大きな車輪、鮮やかで精緻(ち)な胴掛の織物の模様や、柱の角の錺(かざり)金具などに足を止めて眺め入ったこともあった。見飽きない…今でも。

 高校時代はいつも期末試験の時期と重なり、窓から聞こえるお囃子に心が浮き立つのを鎮めるのがつらかったことをいまだに思い出す。

 大学時代は友人や後輩たちで家中があふれ、玄関には親しい友人が「よう来はったなぁ。まぁお上がり」とうちわ片手に家人代わりに座っていてくれた(笑)。両親は笑顔でよくおもてなしをしてくれたと今になって感謝している。

 時を経て今年の6月半ば、わが町内は例年のように八坂神社の祭神をお迎えし、神職の方々にお祭りをしていただいた。今年初めに亡くなった父のあと私は初めて出席させていただいたが、その設(しつらえ)え、厳かな儀式、そして気の遠くなるくらい長い年月、氏子の町内で永々とお守りされている行事と聞き、感動した。

 今年も胴掛や錺金具が山や鉾で新調されたと聞く。古い時代の外国の織物の復元、今をときめく芸術家の作品での新調、古いものに勝るとも劣らぬ多種多様な技術の伝承も含めて、祇園祭は京に住まう人々の誇りであり、心の大切な縦糸の一本である。かかわりのあるすべての方々に感謝しつつ、「やっぱり祇園祭はすごい!」と心から思う。


あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。