ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

京都の宗教劇

精神科医 定本ゆきこ
 7月21日、東本願寺の大谷ホールで、カトリック・キリスト教の宗教劇が上演された。出演者の大半は、これまで芝居をした経験のない素人である。それぞれ仕事や学校を終えた夜に集まり、約3カ月の間、練習を重ねた。

 あまり知られていないが、京都は、仏教だけでなく、キリスト教にも縁の深い地である。16世紀の中ごろヨーロッパの宣教師によって伝えられたキリスト教は、全国に急速に広がったが、京都でも、「ダイウス町」と呼ばれる町々にキリシタンたちが集まって住んでいた。

 しかし、やがてキリシタン弾圧の時代に入る。禁教令が敷かれ、従わない者は、見せしめのために処刑された。京都でも、1619年10月6日、六条河原で52人の信者が火あぶりになった。日本三大殉教の一つに数えられるこの殉教では、幼い子どもや若い母親らまでも大勢処刑された。

 さて、劇は、この大殉教で処刑された、夫婦と5人の子どもたちの一家を中心とした物語である。信仰に導かれ、教えを守り、喜びを持って周りの人たちのために生きようとしていた庶民の男女と子どもが、世の中の大きなうねりの中にのみ込まれ、容赦なく運命を変えられていく様子が描かれている。

 京都所司代板倉勝重は、僧侶出身であるが、何とかキリシタンを守ろうとし苦悩する。「この世に執着せず、与えられた命を感謝しながら豊かに生きている」キリシタンの生き方は、「仏の道にも通じている」と感じていたのである。しかし、将軍直々の命令によりそれもかなわない。人を恨まず、与えられた現実の中で精いっぱい純粋に生きようとし、死んでいくキリシタンたち。胸が張り裂けそうな悲しみといとしい子どもたちの魂の救いをこいねがう母親の祈りは圧巻であった。

 満席の会場では、京都ならではの史実さながらに、キリスト教と仏教、宗派を超えた人々が集まり、感動を分かち合った。

 ちなみに、私はナレーター兼せりふのない登場人物。芝居の舞台に立つのは初めての経験でした。


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。