ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

依存と自立

精神科医 定本ゆきこ
 依存という言葉は、あまり良い意味で使われないことが多い。依存症とは病気の名前だし、あの人は依存的な人だと言われるのは、どうも褒め言葉ではなさそうだ。しかし、私は、依存とは、人間が、人と人との間で生きていく存在であるために、摂理的に恵まれている大切な資質であると思っている。

 そもそも人間は、他の動物に比べると極めて未熟な状態で生まれる。自分で食べることも、移動することもできず、首が据わってないので姿勢の保持もできない。できるのはただ、泣くことだけ。でも、自分の肺で呼吸を始めるという大いなる自立のためには、それで十分なのだけれど。

 「生理的早産」と呼ばれるほどに、未熟な状態で生まれてしまうのが人間。しかし、そこまでまるごと自分の存在を預け依存してくるからこそ、受け止める母親との間に密接な二者関係が形成されていく。愛着関係といわれる、この関係を日常の中で経験してこそ、子どもは、この世の中に受け入れられ愛されているという感覚を持つことが出来る。この感覚こそが、これからの人生を、勇気と希望を持って歩んでいけるための礎となるものである。

 人にとっての自立とは、依存あってのものである。誰にも頼らずたった一人で生きていくことではなく、人と人との間で、互いに助け助けられながら、支え支えられながら立っている、それが人として円熟した自立である。

 肝心なのは、上手に依存すること。自分の弱さと限界を知り、それをいたずらに嘆いたり恨んだりすることなく、感謝して人に手を差し伸べてもらうことのできるしなやかさであると思う。お互いさまという、日本には素晴らしい言葉がある。

 子どもは皆、甘えん坊である。人間が最も依存的であるこの時期に、たっぷりと甘えを受け止めてあげよう。自分が世界に愛されている誇らしい存在であることを、心の底で確信させてあげよう。そうすればきっと世界を愛する大人になれる。


さだもと ゆきこ氏 1960年岡山県生まれ。奈良県立医科大卒業。淀川キリスト教病院などの臨床研修を経て、京都大学病院精神科入局。91年から京都少年鑑別所勤務。著書に「子どもの姿と大人のありよう」「子どもの心百科」(以上共著)など。