ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

挨拶をしよう会



さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 「みんなで明るく挨拶(あいさつ)をしよう会」が設立10周年を迎えた。参加者は着実に増えている。記念のパーティーで、私は「冷たい世の中、ここまで会が発展するとは」と正直な感想を述べた。

 設立の中心人物は、京大出身の元通産官僚野々内隆さんである。彼の発想は、「会社の幹部に働きかけて、彼らの方から部下に挨拶すれば、挨拶の輪が広がっていくのではないか」というものである。彼の運動を株式会社のコクヨ有志が支えた。

 時の文部大臣は町村信孝さんで、「少し補助金を出そうか」という話もあったが、野々内さんたちは断った。「お金のかかる運動じゃないし、補助金を貰(もら)って官に縛られるのは嫌だから」というのである。民の心意気高らかなのがよい。

 そのようにして、大組織の幹部を対象とする純粋民間の、ちょっと変わったボランティア活動が始まった。そこが気に入ったのか、町村さんは、国会の忙しい中、記念パーティーにも参加して、熱いエールを送った。

 私は、地域の活動はまず挨拶から始まると思っているから、発起人に参加させてもらった。

 しかし、世の中、なかなか温かくならない。

 入会された元チェアマン川淵三郎さんが「家の近くで会った母子連れに挨拶したら、若いお母さんが子どもに『知らないおじさんに挨拶したらダメ』と叱(しか)った」とがっかりしておられたが、そういう「教え」がかなり一般化している。子どもが挨拶しなくても、残念なことに誘拐は起きる。これを防ぐ手だてをしっかりすることが必要で、子どもに大人全体に対する不信感を植え付けるのは、子どもの成長に大きなマイナスになると思う。

 会の幹部である滋賀の宮川進さん(78)が大津市長に働きかけ、大津市の団体が「あいさつはえがおそえて わたしから」というポスターを作って町に張り出した。

 そういう市が増えてほしいと思う。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。