ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

古 椿(ふるつばき)



こどもみらい館 館長
浅野 明美

 「秋の夕陽(ひ)に照る山紅葉」の季節となった。今年の色合いはことのほか鮮やかで美しい。

 初夏、わが家の庭はパニックに陥った。ビルの谷間の小さな庭なのに、例にもれず「チャドクガ」の被害に遭った。毎日毎日、見上げるたびにあちこちの葉裏に毛虫がビッシリと付着し、半泣きで身震いしながら慣れない高枝ばさみを振り回し、小枝を次々と切り落としていった。手にはマメができた。古椿(つばき)は見事に丸ぼうずとなってしまった。

 ホッとしたのもつかの間。しばらくしてサザンカの一種のシシガシラが同様の被害に遭い、こちらは半分ぼうずに…。今年に限って何故?と思いながら、暑い暑い夏が過ぎて行った。

 10月のよく晴れた休日、久しぶりに庭を見て驚いた。小さいときから少しも大きく太くなっていない頼りなげなあの百年椿が、勢い良く新芽を吹き出し、いつもより肉厚の大きな葉をたくさん茂らせているではないか。枝ぶりはみすぼらしいものの、生き生きとした明るい緑の葉は、5月の新緑と見まごうばかりだった。その生きんとするパワーに、胸が熱くなるくらいの喜びを感じた。

 平時はビルの谷間のうす暗い庭にひっそりとたたずむ乙女椿なのに、いったん大きな災害に出合うと、こんなにもエネルギッシュに時ならぬ新芽を出し、切り落とされた葉枝の役割を補おうとしている。したたかな、そして素晴らしい自然の理(ことわり)である。シシガシラのほうは現在、よく膨らんだつぼみを付けている。かわいいピンクの八重の花が咲くのが楽しみである。

 大きな災害や事件事故に出合った折、初期対応で適切な処置ができれば、以前より良い反応や成長が見られることがよくある。古椿は、生体機能の素晴らしさを身をもって教えてくれたように思う。人生のあらゆる場面で何があっても「めげずに頑張る」パワーが大切であることも…。

 チャドクガさん、悪者にしてゴメンなさい。


あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。