ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

高 砂



こどもみらい館 館長
浅野 明美

 新春や結婚式の寿(ことほ)ぎの際に謡われる「高砂」。その文字を新聞の募集記事に見つけたのは初秋のころだった。暮れに「第九」を合唱したことが幾度かあり、楽しかったことを思い出し、応募することに決めた。

 「高砂大連吟」。袴(はかま)姿も凛(り)々しい中堅の能楽師3人と御世話方の企画だった。初めての試みとやらで、応募枠100人に160人が応募し、全員が採用され、京都市芸術センター(旧明倫小学校講堂)での練習は壮観だった。小学生から青壮熟年のまさに老若男女が集い、各自CDと、全体練習・少人数練習各3回を経て、リハーサル、本番と3カ月間はアッという間に過ぎた。

 当日は金屏風(びょうぶ)の舞台が設(しつら)えられ、スポットライトの照明の中で、3人の先生方のお謡と住吉明神の神舞が舞われた。私たちは「四海波」「高砂」「千秋楽」を、合図通りに立ち、お扇子を持ち、吟じた。難しい節回しのところも本番ではピタリと合い、素晴らしい結果となった。

 実に爽快(そうかい)爽快。アンコール(!)では「千秋楽」をもう一度吟じた。今年もぜひに、と今は考えている。

 姿勢良く背筋を伸ばし、腹筋を締めながら大きな声を遠くに届くように出すことはとても気持ち良く清(すが)々しかった。

 もっと素晴らしいと思ったのは、謡の内容であった。天下泰(たい)平、国土安穏、そして寿福を祝うものであり、昔はたしなみであったと聞く。日本古来の良き風習の一つとしてぜひとも広く謡い継がれたいものである。

 毎年、元日の朝4時から、国民の目や耳の届かないところで、千数百年来、歴代の天皇は国と国民の平和と安寧を祈る儀式を続けられていることを、今年初めて知った。

 3曲の内容を思い重ね、「有り難きこと」と心から思う。誰に知られることもなく、人の幸福や平和な生活を願うことは、大きな深い「愛」の為(な)せることと思わず涙ぐんでしまいました。


あさの あけみ氏 1950年京都市生まれ。大阪医科大卒業。76年、京都市に入り、京都市立病院小児科に勤務。西京保健所長、南区長などを歴任。2003年、京都市子育て支援政策監就任。05年から現職。保健福祉局医務監兼務。