ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

高齢者も裁判員をやろう



さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 昔、アメリカ最高裁のダグラス判事89歳が、同僚のハーラン判事85歳と、ワシントンDCの街を散歩していた。昼休み時間である。すると、向こうから、胸がグイと突き出たスペイン系の美人がやってきた。彼女とすれ違った2人の判事は、そっと振り返った。張りつめたお尻の動きにため息をつきながら、ハーラン判事が言った。「すごくいい女だな」。すると、ダグラス判事が言った。「ぼくが君くらい若かったら、すぐ追っかけていって口説くのにな」。

 もちろん、これは作り話である。昔の作り話だから、セクハラ気味なところはお許し願いたい。

 アメリカの連邦最高裁判事には、定年がない。これは事実である。だから、70代はもちろん、80代の判事もいるし、過去には90を超える判事もいた。自分から辞めると言わない限り、辞めなくていい。そして、辞めずにいる判事さんたちは、お元気である。私も何回か最高裁の審理を傍聴したが、日本と違って、アメリカの最高裁判事は、法廷で弁護人にどんどん質問する。それがすべてツボを突いていて鋭い。弁護人は、即座に正しく答えられないと、その事件は、まず負けになる。そして、これも日本と違って、どんどん判決書に自分の意見を書く。学者の論文も及ばない、精密な論理を展開する。

 老判事が、しっかりした口調で弁護人の弱点を突く様子を見ていると、自分の老後に希望が出てくる。自分の仕事に責任を持ってしっかり取り組んでいると、ここまでしっかりしておれるのだと、うれしくなる。

 いよいよこの5月から実施される裁判員制度では、70歳以上の人は辞退できることになっている。しかし、せっかく積んできた人生の経験である。むざむざ辞退するのはもったいない。せっかくの機会だから、これを人のために生かしたい。検事や弁護士が参るような、深い質問をしてみませんか。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。