ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

助けられ上手に生きる

同志社大教授 上野谷加代子


 筆者は長年、「たすけ上手・たすけられ上手」をモットーに、社会福祉研究・教育者としてすごしてきた。

 私の経験によると「センセイ」と称される人々の中には、助けられることが得意でない人が多い。職業柄他者に知識や技術を用い、教え(教育者)、治し(医師・看護師)、治め(政治家)、裁き(裁判官、弁護士)、そして私の領域である援助・支援(福祉士等)する人々である。

 どちらかというと他者を助けることが多い仕事であるが、いざ、自分が助けられる状況になると、どうも素直に自分の弱さを認められないようだ。

 先日、親友がブラジルの家族のもとへ帰っていくのを見送った。彼女は86歳の一人暮らしをしている母親を看(み)るために、年に3回も帰国している。「施設入居は拒否するし、介護保険もサービスの種類・内容に限界があるしね」「教育者一家だったからかしら、今さらご近所に頭を下げられないみたいなの」と。

 ひとりっ子の彼女は、仕事と家事と、遠距離介護(あまりにも遠い)をこなしている。私の周りでも遠距離介護をしている知人も結構いる。「女は三度老いを看る」という言葉があったが、いまや「女は遠距離介護をする」時代となった。介護のグローバル化現象である。

 自分の「老い」と家族の「老い」に上手に付き合うためには、助けられ上手になることだ。強い個人になることを求められる社会にあって、競争社会で学び、育ち、働くことは上手になったかもしれない。

 しかし、人間は弱くある自由を持ち続ける社会的存在である。助けられたり、助けたりする中で、社会関係を継続させ、持続可能な社会をつくっていく知恵と技術、そして価値が生まれる。甘え上手、たかり上手ではなく真の助けられ上手になりたい。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。