ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

食のケアマネジメント

同志社大教授 上野谷 加代子


 「誰と、どこで、何を、どのように」食べるのかは、乳児から高齢者まで、人間にとって重要なことがらである。「食すること」は、家庭の事情(家族関係や家計など)を映し出すと同時に、地域、国、世界、地球の事情を凝縮して現しているように思える。

 日本における近年の生活環境の変化は、「個(人)食」「孤(独)食」「個(別)食」「戸(外)食」「5(回)食」という言葉に表れているように、個人のスケジュールにあわせ、個々のメニューを、好きな場所で、好きな時間に、孤独に、飽食の時代の食する姿が見え隠れする。そこには一定の量を分け合ったり、年寄りに合わせた料理に付き合ったり、会話によって理解し合う場としての機能を持つこともなく、ただただ胃袋を満たす行為と化している。

 福祉関係者は、食卓を囲むということを大切にしてきた。それは、囲む相手が家族であれ、恋人であれ、地域住民であれ、サービス利用者同士であれ、相互関係から生まれる会話や感情の交流こそが、子どもの成長を促し、生きるエネルギーになるとの思いからである。人々の生活課題をキャッチするために必ず、「食のありよう」をお聞きし、問題解決へむけて診断評価するのは「食すること」に内包される心身状況や人間関係、経済状況、居住環境を把握できるからである。

 かつて、コミュニティケアマネジメント研究会を主催していたとき、「食のケアマネジメント」をテーマに、社会福祉士、保健師、理学療法士、内科医師、歯科医師、歯科衛生士、栄養士、食器のメーカー、福祉機器のデザイナー、農協、生協など多くの人々が一堂に会したことがある。「食すること」を基本的人権ととらえ、しっかりケアしていくにはこのような多くの職種が連携することが必要になる。この仲間たちとの交流は今も続き、私は各地から無農薬の米や果物を頂く幸運に恵まれている。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。