ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

家族の絆を深める家



さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 天窓の青空、差し込む日の光のやすらぎ。台所と洗濯機と物干しとお風呂とトイレが一列につながり、だから、お料理と洗濯と子どものお風呂の見守りが一度に出来る。幼い子どもがどこで何をしているかがいつもわかり、子どもからすれば、何をしていても親の姿がどこかに見える。

 そんな家が、あればいいと思いませんか。

 お風呂とトイレがつながっているから、認知症の祖母の下の世話が一手間で済む。

 親は、2階の隠れ部屋のベッドに、疲れた身をしばし横たえることができる。窓から見える比叡の山。部屋の空間は、吹き抜けを通して階下につながっているから、階下で遊ぶ子どもたちの気配が伝わる。

 家族が、それぞれのことをしながら、いつもつながっている家。

 自然の素材ででき、風と光が通り抜ける家。

 それが、京都の岩倉に、宇津ア光代さんがつくり上げた、つながりの家である。

 3人の子育てをし、夫の建築業を手伝い、介護もした彼女は、男のつくる家にどうしても納得できなかった。暮らすのに、なぜこんなに不便なのか。そして、なぜこんなにばらばらに暮らすようにできているのか。疑問に答えるため、広く学んだ経験が、働きざかりの夫の死を越えて、世の中に生かされることになる。彼女は、「住まいで家族の絆(きずな)が深まる」という思いを人々に伝える伝道師となり、NPO「次世代の家と社会をつくる会」を設立した。

 「抱きしめるだけで愛は伝わる」とは、彼女と娘友見さんの著「大丈夫だよ、お母さん」(いろは出版)の中の言葉である。暖かく育てた娘2人は、彼女の会社ミセスリビング(TEL075-705-0707)の共同代表となっている。家を見学にきた女性たちは、「これこそ私の欲しかった家」と言って涙をこぼすそうである。よくわかる。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。