ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

温もりのある場所

ヴォーリズ記念病院ホスピス長 細井 順


 ウェルネスをご存じだろうか。先月、日本ウェルネス学会に参加した。この学会の目的は、自分の人生は自分で責任を持つことを知り、身近な健康について見直し、食生活やその他の日常生活を改善し、幸福で充実した人生を送ることについての学際的研究である。

 ウェルネスは生き方や生活そのものである。学校や地域で健康に携わっている教育者や研究者らが集まっていた。発表は多岐にわたり、健やかに成長し日々健康に生きるために、さまざまな努力が払われていた。何より、学会の明るい雰囲気には圧倒された。あの屈託のない明るさはまさに健康感を有する人たちの集まりだった。

 一口に健康といっても、その人のおかれている状況によってその意味はかなり違う。医療・介護を必要とする人たちを不健康と言えるだろうか。病院では、長期間リハビリを続けている患者さんとすれ違い、その明るさや熱心さに頭の下がる思いを経験する。筆者は、腎がんのために右腎臓を摘出したので左腎臓だけで生きているが、おかげさまで日常生活に支障はなく、健康でおおむね良好な人生を過ごしている。学会では、病気のために健康的とは言えない場合でも、健康感を持てるような生き方をウェルネスと呼んでいる。

 ホスピスでの生活もやはりウェルネスである。人生の幸福と充実は、どのような状況におかれても、誰もが求めて止まないものである。死を意識してから本当の人生が始まるとも言われる。ホスピスで過ごし、多少とも人生の店じまいを覚える人たちがウェルネスな生と死を考えないでいられようか。

 学会で出会った人たちのような明るい輝きは影をひそめるが、ホスピスで出会う人たちには明るい温(ぬく)もりがある。人生の年輪を加えるごとに、輝きが温度の冷めない温もりへと変わってくる。その温もりで私たちケアにあたるスタッフも温められている。ホスピスの温もりはそこにかかわる者の総和である。ウェルネスなホスピスを育てていきたい。

ほそい じゅん氏 1951年生まれ。大阪医科大卒業。自治医科大外科講師を歴任後、96年淀川キリスト教病院ホスピス医長。2004年自らも腎がんを経験した。06年から現職。患者と哀(かな)しみを共にするケアを実践している。