ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

地域の隣人力

同志社大教授 上野谷 加代子


 「ご近所の底力」という言葉がある。近隣の人々が、解決困難な地域の課題に力を合わせて立ち向かい、知恵を出し合い行動すると想像もできない大きな力が発揮できる、ということだ。私の好きな言葉の一つだ。しかし、いつも底力を出し続けることは可能なのかと怠け者の私は、少々怯(ひる)む。そこで「底力」とまでいかずとも、もう少し日常的な地域における「隣人力」を提案したい。

 「ご近所の底力」や「地域の隣人力」を継続して発揮しているところの共通点として、
  1. 他者の悩みや地域の課題を受け止め・気づく・支える力を持っている人々、
    おせっかいな人がいる
  2. 住民とともに歩むリーダーの存在
  3. 継続していくための仕組みがある
  4. 活動が社会的に認知されている、そして、
  5. 楽しんで無理なく種々のプログラムを開発している、
などがあげられる。

 これらの「底力」や「隣人力」の開発や発揮のためには、市区町村(基礎自治体)における「地域福祉計画」策定の効力に負うところは大である。地域福祉計画の目的の一つは住民の主体形成・参加である。たとえば、京都府精華町(人口約3万6千人)は、農村型地域、住宅開発地域、学研都市地域とおのおの特色がある地域からなり、計画策定が難しいまちである。そこで「地域福祉計画」策定段階においては、「せいか隣人まつり」と称して、10歳代から80歳代までの住民自身の交流や気づき、問題解決へつながる集いを中学校区圏域で開催し、世代を超えて安心して住めるまちを目指した。

 策定が終了した「地域福祉計画」を絵にかいた餅(もち)にしないために、住民・行政・事業者らが一緒に計画の進行管理をする「地域福祉推進ネットワーク会議」を今月、住民の手で立ち上げたところである。校区ごとに活動を継続していくための組織を立ち上げ、地域力(ひと・もの・金)をつけようと呼びかけている。主体的にかかわる住民力に頼もしさを感じる。これからは地域における隣人力蓄積に期待したい。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。