ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

プロになる楽しさ

同志社大教授 上野谷 加代子


  社会福祉現場で働いている卒業生をゲストに迎え、介護保険時代の「高齢者ケアの実際」を話してもらった。日ごろ、ケアマネジャー(介護支援専門員)として、どのような仕事をしているのか、そして彼女が仕事をする際に心がけていることなど、先輩として学生に語ってもらう。ここ数年、私が担当する授業の恒例行事になっている。

 彼女は、事情があって離婚し、いわゆる女手一つで子どもを育てている。大学では美学を専攻し福祉とはほど遠い環境にあったが、大学時代に夜間の専門学校で得た資格が後に生きた。ケアマネジャーとして働きながら、大学院修士課程に進学し、社会福祉の知識・技術・視点を身につけ、現在も地域に根ざしたソーシャルワーカーとして老人保健施設に勤務している。

 今回の話は、86歳の軽度認知症の母親を介護している42歳の息子と母親本人の支援についてであった。ごみ屋敷? 猫? 食事は? 入浴は? 投薬は? 介護放棄?・・・・と連鎖させていくとどうなるか。専門職としてではなく、個人が持つ固定的な価値観で物事を見、聴き、判断していないだろうか。彼女の支援の仕方は、徹底した本人・家族との信頼関係づくりから始めるという。

 当事者が抱える課題を同じ目線でみようとすれば、気づき、新たに見えてくるものがあり、なぜ介護放棄をせざるをえないのか、が了解できるという。簡単に高齢者虐待と決めつけることもその家族の尊厳を傷つける。しかし、こと命にかかわることだけに、虐待の予防線は必ず張っておく。まさしくプロだ。

 その一方で、娘や息子、家族員として感情移入してしまい、燃え尽きて仕事を辞める人もいる。

 何と、高齢者ケアの仕事は難しいことか。このことを真に学んだ者たちは、自己の限界を謙虚に知り、他の専門職や地域住民、家族と協働していく。彼女いわく「プロになる道のりは厳しいが楽しい」。来年も楽しみである。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。