ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

創(つく)るということ

映画作家 河瀬直美


 創るということはどういうことなのだろうと最近真剣に考えている。

 最初のころは自分の思いついたストーリーを絵コンテ化して、カメラのサイズや動きまで明記し、それにもとづいて撮影を進めていた。もちろんその中では、俳優たちはわたしの思うとおりの動きをすることになる。構図もまとまっていればそれでいいと思っていた。それは、まるで現代建築を、設計図どおりに組み立ててゆく作業に似ている。寸分の狂いさえ許さないかたくなさが、そこにはある。

 26歳のときに撮影した「萌の朱雀」で撮影監督が、この作品は順撮りにしたほうがいいと言った。そのときのわたしには、順撮りがいったいどういうことを意味するのか、その成果はどこにあがるのかなど、まったくわからずにいた。助監督もメーンスタッフもその意見に賛成だったし、大きな体制での映画制作の経験がある人たちの言うことは正しいのだろうということで、それを決行した。結果、俳優たちの気持ちが素直に流れて想像しなかった抑揚が作品に生まれた。世界がリアルに再現されたようだった。

 最近、若手監督の映画をプロデュースする機会を得て、彼らの作品の撮り方を見ていると、あの当時の自分を見ているように思うときがある。彼らはわたしなんかよりも非常に優秀でセンスもあるから、そのやり方で着々と映画を創り上げてゆくのだろうとは思うが、もしも彼らがあのときわたしが感じたリアルの創り方を受け入れてくれたなら、何かが劇的に変わるかもしれないと思うときがある。

 けれどそこで、わたしは迷う。モノを創るということはいったいどういうことだろうか? 本当の答えはどこにあるのだろう。創るということにおいてリアルさは必要なのだろうか? もちろん答えなんてない。が、これはきっとやはり人生に似ているのだなと思う。実感を持つということ、そしてそこでしっかり「生きて」いるということ。

 さて、創作とはいかに。


かわせ なおみ氏 1969年奈良市生まれ。97年「萌の朱雀」がカンヌ国際映画祭新人監督賞、2007年「殯の森」がグランプリを受賞。2010年より開催の「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター。