ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

本物のまちをつむぐ本能

同志社大教授 上野谷 加代子


 大学の講義のほか、楽しみな仕事といえば、全国各地におもむき、まちづくりについて話を聞かせていただくときである。私の場合、一般のまちづくりというより、福祉を手段にして取り組む「福祉でまちづくり」に関心を持ってのことだが。

 「まち」は私たちが、生まれてから、命の終末をむかえるまでの暮らしの場であり、その時々の社会の情勢によって問題発生の場と化す。しかし問題解決の場でもある。「まち」には、先祖から受け継いだ問題解決の技や生活の術(すべ)、そして人的・物的資源が蓄積されている。暮らしを構成する衣・食・住を朝、昼、晩の24時間、春夏秋冬の1年にわたり、滞りなく幸せに継続させることが「福祉でまちづくり」の本質である。

 私流にいえば、本物のまちづくりとは、単に街並みが美しいとか便利だとかではなく、「福祉でまちづくり」を底流においているところといえる。

 その本物のまちづくりをしているところがある。京都、本能学区である。染めのまち本能として有名であるが、伝統産業を伝え・残すことをとおして、むしろ、日常生活における共感、共生、協働を伝え、まちをつむいでいる。

 毎月、開かれる「まちづくり委員会」は、住民のニーズをしっかりと受け止めながらも、住民に、そして本能にご縁を結ぶ人たちに夢を与え続けている。行事について、熱く夜遅くまで話し合われる。10年続く「本能まちづくりニュース」は読み物としても面白い。堀川高校に隣接する跡地利用についても、まちづくりとして委員会が取り組んだと聞いている。そこには拠点としての自治会館、本能特別養護老人ホームができた。先見の明があったといえよう。「福祉でまちづくり」を、住民が関係者とともに、具体化した結晶である。

 立命館大学、京都府立大学、同志社大学など多くの大学生にとっても、学びの場となっている。本物のまちは頑固であるが、開かれている。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。