ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

尹さんの夢



さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 東九条の鴨川沿いに、尹基(たうちもとい)さんが思いを込めて建てた老人ホーム「故郷の家」がある。「在日コリアン高齢者と日本人のお年寄りが共に暮らし、キムチと梅干しのあるホームを目指す」と目的に言うとおり、みやびな茶室がある一方、オンドルでお尻があったまる部屋もある。大屋根に韓国風の装飾がある150席の文化ホールは地域の方々に開放されているし、ホームの職員たちは地域の家庭を訪問し、介護や生活支援をしている。建物の内部の壁の色は、若い職員の提案でほのぼのとしたピンクで統一されている。

 尹さんがこの地域に老人ホームを建設するに当たっては、いろいろと問題があった。しかし全力でぶつかってそれらを解決し、開設にこぎつけたのは、故郷を持たない在日コリアンや、地域で寄る辺なく老境を迎える日本の人々に、こころのふるさとを提供したいという熱い思いがあったからである。

 そして、「故郷の家」が開設一周年を迎える今、尹さんの夢はさらに広がる。この地域に大学院大学を開いて、東北アジアの福祉のあり方を研究するセンターにしたいというのである。「それが出来ればこの地域の雇用も増えますし」と、副次効果も計算ずみである。

 2002年、私は、マドリードで開かれた高齢者問題を協議する世界NGO会議で、樋口恵子さんと共に、アジアの高齢者問題を協議する分科会を主催した。私たちは、日本の介護保険制度を説明したが、10カ国を超えるアジアの国々の参加者たちの反応は違った。高齢になっても働いて暮らしたいというのである。確かに60を過ぎると元気なのに職場から締め出しながら、年金などの負担が大変だとぼやいている日本の福祉はおかしい。

 アジアの諸国が高齢先進国日本の福祉の短所を踏襲せず、長所をよりよいものにする制度をつくり、日本もそれを学ぶという好循環を生む研究センターがほしい。みんなで67歳の尹さんの夢を応援したい。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。