ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「居場所」づくりの春

同志社大教授 上野谷 加代子


 卒業生を送り出して、感慨にふけっている間もなく、新入生を迎えた。今年の第一印象。若い!(私が老いたからか) 幼い!(苦労していないからか) カワイイそして元気!(衣食満ちているからか)

 4月の新人(学生も新入社員も)の姿には、一種の眩(まぶ)しい輝きがある。厳しい入学・入社試験をくぐりぬけた安堵(あんど)と自信で心ときめくことだろう。しかし希望に満ちているにもかかわらず、どこか不安げで、何かを求めている様子がみられる。

 一転した環境の中に自分の「居場所」はあるだろうか、自分のことを認め、理解してくれる人はいるだろうか、自分の心身を癒やす場はあるのだろうか、自分の力が発揮できるだろうか、何より自分自身でいられるのだろうかなど、様子をうかがい、戸惑っているようである。

 「居場所」を探しているのは、何も新入生(社員)ばかりではない。定年退職者、退院した人、転居してきた人、つれあいを失った人など、今までの生活環境が激変した人びとにとって、自分であり続けることのできる「空間=場と人間関係」を求めることは自然なことである。

 私たち社会福祉関係者は、近年、「高齢者の交流の場づくり」や「子育てサロンの開設」、「若者の居場所探し」などを手伝うことが多くなってきた。

 つまり。家族や地域社会における人間関係が希薄化する中で、人びとが安心して自分の考えや感情を表出し、互いを認めあい、生かし合う関係をつくることは困難である。が、少しの応援と手伝いで、それぞれの個別の事情に応じた居場所をつくることができれば、もっと楽しく尊厳ある人生が送れるのではないだろうか。

 「居場所」は探すものでなく、創(つく)るものだと思う。あてがうものでもない。至れり尽くせりの時代にあって、新入生や新入社員の若者には、自分自身の居場所とともに他者と共生できる「居場所」をも創りだしてほしい。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。