京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 すべき事とできる事
同志社大教授 上野谷 加代子
5月も半ばを過ぎると、必ずといってよいほど卒業生が研究室を訪ねてくる。
「やりがいはあるのですが、仲間とうまくいかなくて・・・」「あれもこれも一人でやらなくてはいけない・・・」「今の環境では、やりたいことができそうもない・・・」等々。新卒、3年目、5年目、中には20年も仕事をしているという場合もある。 すべきこと「社会的使命」と、やりたいこと「希望」と、やれること「体力・能力」との関連で悩む姿が浮き彫りになっている。 社会福祉の現場は、「社会的使命」を多く求められるのが現実だ。医師、看護師など医療関係者や教育者、そして消防隊など災害救助に携わる人々も同様である。 しかし、彼らとて普通の人間だ。家庭もあり、子育て・介護に悩んでいるかもしれない。深酒はもうしないと後悔しているかもしれない。心機一転、新たな気持ちで取り組もうとしているかもしれない。 ときどき、私は「やるべきこと」に振り回され押しつぶされそうになるときがある。それは、たいがい自分のやりたい事柄でない場合か、自分の体力、知力、気力を顧みず、能力が伴わない場合である。何度も苦い経験をしている。 それでもまた、社会的な期待に応えようとするのであろうか、「社会的使命」が頭を持ち上げる。 人にはそれぞれ、その時々の自分なりのバランスのとり方がある。 あるときは社会的使命に燃え、またあるときは自分のやりたいことに重心を置き、そして体力・能力と相談しながら、ぼちぼちとできることを丁寧にする人生のときがあってもよい。 いずれにしても、私たちは、年齢・性差、状態にかかわらず、社会(地域・家族)からの期待や、社会的使命をもってなすべきことと、自分のやりたいことと、自分ができることとのバランスがとれたときに、自己実現することができ、真に「有難い」と感じるのであろう。 うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。 1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。
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