ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

司法と福祉の連携

同志社大教授 上野谷 加代子


 「ほっとポット」という団体がある。生活に困窮している人や、野宿生活を余儀なくされている人などを対象に、社会福祉士(全員が国家資格取得者)による相談支援を行っているNPO法人(特定非営利活動法人)である。

 先日、代表者と職員の方々にお会いした。活動当初、野宿生活者の人々へ、温かい飲み物を入れたポットを持って巡回相談をしていたという。それが名前の由来だ。

 「だれもが、温かいお茶を飲むときは、ほっとするでしょう。どんな人でも、どんなときでも、ほっとできる関係と環境をつくりたい」と、彼らは言う。

 そして、居場所と心のよりどころの回復を目指して、種々の活動を展開してきた。たとえば、住宅を借り上げ、住む家がなく困っている人への一時的な居宅支援や生活保護やさまざまな行政手続きの支援、多重債務・病気等の相談にいたるまで、弁護士や社会福祉士、精神保健福祉士などがおこなっている。

 丁寧な支援の実績が認められて、相談件数は増加の一方で、最近では、司法分野からの相談が増えているという。

 貧困、生活苦ゆえの窃盗(万引)、無銭飲食や知的・精神障害、高齢者等さまざまな福祉的配慮を必要としている人たちが犯罪に至る事件が社会問題化している。受刑者の高齢化や知的・精神障害者などの刑務所内の処遇を巡って、社会福祉の視点からの援助が必要である。司法と福祉の連携が求められる。

 「ほっとポット」では、福祉ニーズを持った人々が不起訴や執行猶予等になった場合の「司法の入り口」と、元受刑者とよばれる「司法の出口」の両方に目を向け、再犯を防ぐ地域支援をしていきたいと、一軒家を借りて緊急一時シェルターとする計画を立てている。

 制度のはざまにいる人々への支援を若い人たちが、使命感を持って取り組んでいる姿に、ほっとすると同時に、熱いものを感じた。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。