ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

辻立ちの奇策



さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 一年前の本欄に「名刺両面大作戦を仕掛ける」と書いた。狙いはサラリーマンのボランティア参加である。仕事上、彼らが必ず使う名刺の裏に、自らやっているか会員となって応援しているボランティア団体やNPO団体の名前を印刷しようという運動である。

 さっそく京都の文具等販売会社カスタネットの植木力社長など、呼応して実行して下さる方々も現れたが大作戦というほどには広がらない。企業に訴えてもいまひとつ乗りが悪い。無理もないので、名刺の裏に印刷することはそれほど難しくはないが、サラリーマンがボランティア活動や地域活動にかかわること自体はなかなか難しいことなのである。

 そこで私は、窮余の奇策に打って出ることにした。山手線一周辻立ち作戦である。

 東京山手線29駅、毎朝すごい数の通勤客が乗り降りする。そこで、月曜から金曜の朝7時45分から1時間、マイクを持って辻立ちし、通勤客に直接名刺両面大作戦を訴えようというわけである。

 始めたのは、新橋駅、6月1日。1駅2週間ずつやり、一周して新橋駅に戻ってくるのは明年の7月25日。この8月第1週までで5駅終了、うれしいことに毎日10人前後のボランティアが参加して、チラシを配ってくれている。前出の植木さんも京都から深夜バスで上京、一日参加して下さった。

 始めてみて驚いたのは、東京の男性サラリーマンのお疲れぶり。これから出勤というのに、ほとんどの人がうつむいたまま、周りに一切関心を払わず、モクモクと歩いて行く。「日本の男性サラリーマン、頑張れ! 仕事に自分を奪われず、家庭生活も趣味の活動も、ボランティア活動も楽しんでみよう」と心の中で叫ぶ。

 それでも、1日に何人かは「私たちもやります」と元気な男性に出会うし、「頑張って下さい」と声をかけて下さる女性もいる。それを励みに、くじけず続ける覚悟である。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。