ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

なら国際映画祭

映画作家 河瀬直美


 いよいよ8月25日から4日間、第一回の「なら国際映画祭」が開催される。

 2007年のカンヌ国際映画祭で「殯(もがり)の森」がグランプリをいただいたとき、この町に暮らす人々の可能性をもっともっと国内外に知らせたいと思うようになった。

 地域で映画を創(つく)り、その土地に根ざした文化や風習を作品世界に構築してゆく作業はわたしにとって生きることを豊かにする経験となる。

 生まれ育った奈良の旧市街は世界遺産登録をされている歴史的建造物がたくさんあり、駅から歩いていける距離に春日奥山原生林の広がる世界的にも稀有(けう)な土地柄だと思う。

 わたしも奈良で暮らしているだけではその価値をわからずにいた。しかし一度奈良を離れ別の土地で暮らしてみて、外から奈良を見る機会を得た瞬間にその価値を再発見したのだ。ましてや海外の人が奈良で撮影した自作を評価してくださる機会が増えるにつれ、映像で見るだけではなく、ぜひこの土地を訪れてほしいと思うようになった。

 2007年はそれを具体化できると思えた年だった。今なら世界の映画人が奈良に興味を持ち、行ってみたいと思ってくれている。この機会を逃さずに動き始めよう。そうして立ち上がったNPO法人なら国際映画祭実行委員会は、実に2年以上をかけてこの日を迎えた。

 不況の影響もあって資金が集まらず当初予定していた規模には及ばなかったが、作品のセレクション、質にはとことんこだわった。イタリア人にチーフプログラマーとして就任してもらい、世界を代表する新人監督の作品に的をしぼり、日本で初めて上映されるというプレミアを前面に打ち出してセレクションした。

 また、なら国際映画祭が映画を製作するプロジェクトを立ち上げ、東アジアを代表する新人監督にメガホンをとってもらった。それらには、自分の町を誇りに思う、あたらしい人との出会いを求めて、未来へ託す想(おも)いが込められている。


かわせ なおみ氏 1969年奈良市生まれ。97年「萌の朱雀」がカンヌ国際映画祭新人監督賞、2007年「殯の森」がグランプリを受賞。2010年より開催の「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター。