ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

映画祭が終わった

映画作家 河瀬直美


 私の念願だった、なら国際映画祭が無事閉幕を迎えた。開催期間中の上映は22作品、来場者数は5527人。資金と宣伝不足から一進一退を繰り返してやっとこぎつけた第一回なら国際映画祭は、熱い4日間が嵐のように過ぎ、今沸々とその日々を振り返っている。

 もちろん反省は山のようにあるが総じて大成功と言っていいと思う。その所以(ゆえん)は、これだけのことを成し遂げたのが映画祭に関してずぶの素人であったというところにある。

 私自身映画祭への参加はあっても運営は初体験だ。事務局スタッフも理事のみなさんも映画好き、人好き、お祭り好きではあっても映画祭は初めてで、できないなりに泣いたり笑ったりして必死でやった。

 その熱意がゲストに届いた。外国人監督9人、審査員3人、そのいずれの方たちもが、4日間の体験を最高だったと振り返ってくれた。こんなに一人一人が真っすぐ丁寧に対応している映画祭は他にないとも。

 そこには、日本人としてのおもてなしの心がある。彼らのアテンドには外国語を話せるボランティアスタッフが就いた。技術ではなく心で接するようにとみんなで口をそろえて確認し合うなかで、彼らは見事にそれをやってのけたのだ。

 日本に初めて来たゲストも少なくなかった。中東や南米、モンゴルからのゲストにとって日本のイメージは東京であったに違いない。それが奈良を通して彼らは初めて具体的な日本を知った。そして口々に「やさしい国」と言った。

 審査員のカンヌのディレクターが奈良は映画祭をするのに本当にいい町だと評価した。映画を見るだけでなく町に出て楽しめるから、と。

 私は涙があふれた。そうだ、私は映画祭をやりたかったわけではなかった。映画祭を通じてこの町の豊かさをみんなに知ってほしかったのだと気付いたからだった。この町を誇りに想(おも)うこと。次世代の子供にとって日本にとって本当に必要なことがそこにあるような気がしている。


かわせ なおみ氏 1969年奈良市生まれ。97年「萌の朱雀」がカンヌ国際映画祭新人監督賞、2007年「殯の森」がグランプリを受賞。2010年より開催の「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター。